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東京家庭裁判所 昭和37年(家)12066号 審判 1963年2月25日

申立人 中川幸子(仮名)

相手方 中川行男(仮名)

主文

相手方は申立人に対し昭和三八年三月以降当事者間の長男修の高等学校卒業時に至るまで毎月末限り月額金三万円及び昭和三八年七月末限り金二万円同年一二月末限り金二万五千円を送金して支払わねばならない。

理由

申立人の本件の申立の要旨は「相手方は申立人に対し申立人及び当事者間の長男修、二男健二の生活費、教育費、治療費、月額計金三万円を送金支払わねばならない」との審判を求めるというにあり、その趣旨は夫婦間の協力扶助の方法として相手方に対し、別居中の申立人に対し申立人及び当事者間の二子の生活費(教育費、治療費を含む)金三万円の送金支払義務を負担せしめその履行を命ずる審判を求めるものと解すべきである。

一  よつて考察するに、本件記録によれば次の事実が認められる。

(イ)  本件調停申立に至るまでの経緯

申立人と相手方は昭和二一年一二月二八日届出により婚姻し横須賀市○○町で同棲し長男修(昭和二一年一一月一四日生)二男健二(昭和三〇年八月一五日生)の二子を儲けた。

その頃申立人は定職なく駐留軍関係の仕事をしたり自ら事業を営んだりしたけれども収入安定せず家計費も不足勝ちでこれらのことから夫婦間に溝が生じていた。

その後昭和三〇年一一月頃上記田浦町にあつた家屋を売却し、申立人の実兄の援助も受け申立人の現住家屋を建築し移転した。そして相手方が昭和三〇年半頃からはじめたNHKテレビ番組紹介の事業がその後順調に進んできたに拘らず申立人に対する相手方の感情は依然として面白くないものがあり、余裕金ができても飲酒に使用し、これを責める申立人に対し暴力行為に出ることもあり、かたがた相手方には他の女性との関係も生じたりして夫婦間に口論紛争が絶えず、相手方も申立人に対する悪感情が高まるばかりであり、申立人にもこれを和げようとする努力にも不充分の点があつたりしたので、昭和三一年一月八日相手方は家を出てアパートに間借し、生活費として毎月送金し、その送金額も物価の上昇等を理由とする申立人の要望により再三増額し昭和三七年四月申立人は自らは結核におかされ長男も高校進学したことなどを理由に再び増額の申入れをしたところ相手方はいつかは離婚したいと考えていたことでもあつたので知人を介して月額金三万円の送金は続けるから離婚したいと申出で同年五月分として金三万円を送金したが申立人に離婚に応ずる気持がなかつたためその後の送金を停止してしまつた。そこで申立人において本件調停の申立をなすに至つたものである。

(ロ)  本件調停不成立に至るまでの経緯

そして本件調停の経過中相手方は申立人に対しその後の分として毎月額金二万円五千円を送金してきたが申立人との離婚の意思は変らず、申立人も相手方との円満な家庭生活の期待はもたないながらも相手方との離婚を承諾しないので、申立人と相手方が再び共同生活をすることは殆んど期待できない状態にまでなつているが調停不成立に帰した。

(ハ)  当事者双方の生活状態

申立人は長男修(○○高校在学中)と二男健二(小学校在学中)とともに建坪八坪二合五勺、二間の家屋(申立人所有名義)に居住し、一時は内職などにより家計費の不足を補つてきたが、上記のように病に冒され、稼働にも堪えかねるので専ら相手方の送金に頼らねばならないがどうしても月額金三万円は必要とする状態にある。一方相手方は間代月額四、五〇〇円のアパート住いであるが株式会社テレビアン社の役員として月額税込五万円乃至六万円の収入を得ており、送金分二万五千円を差引いた残額で単身生活しておること。

二  当裁判所の判断

以上の事実によつて本件をみるに申立人と相手方間にはもはや婚姻を継続しがたいような破綻の状態にあるとはいえ、この状態を招いたのは申立人にも責任なしといえないにしても大部分は相手方の責に帰せられるべきものというほかはないので、当事者間の身分関係について何らかの根本的解決の得られるまでは申立人に対し相手方の収入資力に相応する生活費の送金支払をなさしめることが相当である。ところで子に高校教育を受けさせることは特に相手方の資力に比して不相当とは決していえないから二子の教育費及び申立人の療養に要する通常の費用もまた相手方の負担とすべく、これらも勘案すれば申立人のいう月額金三万円は総理府統計局統計課編による東京都内勤労世帯の家計費に比して不相当のものではなく、相手方の前記収入に徴してもこれを負担せしめることは苛酷に失するものともいえない。

三  結論

よつて相手方をして申立人ら三名の生活費として一旦送金を停止した昭和三七年六月分以降月額金三万円を負担せしめるのが相当であるが、長男修の高校卒業時後の分については格別の事情の変更あるものと予想せられるので本審判においては高校卒業時までについて判断するを相当とする。ところで相手方は前記のように月額金二万五千円は送金してきているのであるから本審判告知前の分については別途不足分の負担の方法を考慮すべきであるから、以上の負担分の支払方法については、昭和三八年三月以降毎月金三万円を従前の不足分は本年七月及び一二月の一般期末給与支払時の二回に分割支払をなさしめるよう定めるのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 綿引未男)

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